2021.1.17/第7回 岡山ジム主催興行


JAPAN KICKBOXING INNOVATION 認定
第7回 岡山ジム主催興行

 

主催:岡山ジム

認定:JAPAN KICKBOXING INNOVATION

日時:2021年1月17日(日)

会場:コンベックス岡山・大展示場
(岡山市北区大内田675番地)

後援:岡山市

 

◎……KOまたはTKO勝ち

◯……判定勝ち

 ×……負け

△……引き分け



第10試合 セントラルグループ presents 岡山ZAIMAX MUAYTHAI 55kg賞金トーナメント 決勝戦 3分3回戦(延長1ラウンド)

 

○ 加藤 有吾 (カトウ・ユウゴ/RIKIX/WMC日本スーパーバンタム級王者/54.6kg)

× 壱・センチャイジム(イッセイ・センチャイジム/センチャイムエタイジム/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/元ルンピニースタジアムジャパン認定バンタム級王者/54.85kg)

 

判定3-0(30-24、30-24、30-25)

※1R、壱ダウン×2、3R、壱ダウン×1

※加藤が「岡山ZAIMAX MUAYTHAI 55kg賞金トーナメント」優勝

前試合、地元のホープ(平松侑)が名門のエリート(白幡裕星)を激闘名勝負の上、スプリットで破り王者となった興奮冷めやらぬ中、メインイベントのファイナルマッチ、トーナメント決勝戦、フルラウンドの激闘を戦い抜き優勝候補筆頭・岩浪悠弥を下した壱・センチャイジムは、沖縄のティーダ(太陽)を思わせる陽気な眩しさをキラキラさせながらにこやかに入場。続いて、タフネスに定評ある元山祐希を呆気ないまでの圧倒1ラウンドKOで倒してのけた加藤有吾は、そんな誉れがあったことなど忘れているかのような淡泊で集中した緊張感を漂わせながら小走りに花道を駆け抜ける。その加藤の入場の間、壱の師、センチャイ・トングライセーンは、青コーナーで跪く壱に相当細かく右ヒジ打ちのバリエーションやタイミングを確認している。

 

リングコールされると、壱は“神童”那須川天心よろしくトリケラトプス拳の構えで威嚇して破顔一笑。加藤は、三白眼で見下すような冷めた視線。

 

初回ゴング。互いが間合いを詰めた途端、センチャイが「どんっ!」と叫ぶ。「ここでヒジを放て」というよりも「このタイミングでこれからいけ」という拍子取りのようだった。

 

壱は、事前インタビューで加藤のことを「相手に合わせて戦術を変えるとか必要ない自分の確かなスタイルを持ってますね」と評したが、まさにその通り。ステップワークを詰まらせることなく接近しては、凶悪なまでに硬い拳を繊細に振り回すコンビネーションを繰り出してくる。これを嫌う壱は、距離の長い左ミドルキックで牽制するが、当たるでも止めるでもなく功を奏してはいない。

 

そんな刹那、すっと不愛想に距離を詰めた加藤の左フックと右アッパーを連続する鉄球の左拳を鍵型にした腕で振り回した一振りがコンパクトにコツンと当たっただけで、壱はグラブをマットにタッチさせマットに転がった。あまりにも簡単に奪われたファーストダウンに驚き理解ができないのは観客以上に壱だろうが、視覚に吹き出しが見えるとしたら「?」マークを頻出させながら唖然とした様子で目を丸く見開いている。

 

その後、焦るでもなく当たり前に加藤は攻め落とすべく距離を詰め、無慈悲にコンビネーションを叩きつけに来る中、壱は、師が念願する右ヒジ打ちのコンパクトな折り畳みナイフをシュシュと合わせ当てる。それをお構いなしに強烈な左右フックのボディーブローも織り交ぜてくる連撃に、ヒザを落としかける壱。

 

そして、当然のように直撃する左フック。今度は、でんぐり返しなくらい大きなリアクションでもんどり打って壱が倒れ込む。また、吹き出しが「???」な驚きが眼に浮かんでいる。

 

残すところ数十秒。あと一度のダウンで試合は強制終了。「立たねば」「下がってはならない」「ヒジをあわせろ」と壱は、すべきことを意識があろうとなかろうと遂行する。それにまったく動じることなく仕留めにかかる加藤。だが、ゴング。

 

ラウンド。朦朧とした意識は戻ったか、クリアーな動きで壱が細かくあらゆる角度の右ヒジでやや前傾になりながら必倒の鉄拳を振り回す加藤に斬りつける。両者が接着すれば乱暴に首相撲でマットに長身のハンサムガイを叩きつけるのは、ムエタイのアンチテーゼでもある目黒スタイルを貫く加藤だった。空手とボクシングとムエタイのハイブリッド、壱が最も傾倒するのはムエタイ。その土俵で上をいかれる残酷さは、パンチによる決定的なダメージがあるからこそになのだろうか。いや、首相撲という必須科目を厭うことなく履修した加藤のスキルがここで壱を上回ったからだ。

 

加藤が踏み込んで振る右アッパーからの左フックのセットはあまりにも強過ぎる。まるでゲームで嫌われるチートのよう。それを加藤も自覚しているか動きに迷いが一切なく前進してくる。そこに鮮やかな壱のロング左ストレートが突き刺さる。お見事な一槍。準決勝では、30戦して1度しかダウンしたことがない岩浪に2回目のそれを与えた閃光のタイミングだったはずだが、加藤は動きを一瞬止めたのみ。しかし、このラウンド、壱がしのいで見せたのは、ムエタイの技巧よりもアマチュアボクシング国体選手として活躍したシュガーフットとレーザーのような左ストレートがあったからこそではなかったか。

 

ラウンド終了間際、加藤の顔面に異変が見える。鶏卵を乗せたほどの大きな腫れが左眉に出現している。その膨らみは血汗が詰まった爆弾で、破裂すればそれまでのダウンポイントを帳消しにするTKO敗を招く悪魔の禍。更に瞼はどす黒く膨らみ、視界をも奪っているかもしれない。

 

そう、壱に勝機はあり、それは彼とセンチャイ師が確信的に蒔いた種が芽吹き蕾を蓄えたものだ。

 

最終回、第3ラウンド。壱の意識ははっきりしているのだろうが、そのハードディスクたる脳はこの激闘を記録しているか心許ない。それでも壱は、なすべき短刀を突き刺し、斬り裂き、叩きつける作業に集中する。合間にボクシングを散りばめながら。

 

容貌がどう変異しようと不動なのは加藤の心。何の動揺も迷いも見えない加藤は、小野寺力と石井宏樹というキックボクシング史に輝く英傑たちに背中を押されて自信満々に心身のチャージを満タンにコーナーを発進する。

 

パンチもキックもヒジも交錯する。その中で左眉の爆弾とは別に加藤の鼻から血が噴き出し顔面を朱に染める。加藤の鉄拳ほどでなくとも壱の決意の拳は、彼の顔面を破壊しつつある。だが、パンチが交錯して左フックから右ストレートが一閃、マットにつくばうのはまたも壱でしかなかった。3度目のダウン。美男の鼻もひしゃげ血を吹き、顔は望まぬ血化粧に染まる。

 

「マシーンのように繰り出す」などと加藤のパンチを表してはならない気がする。そこには熱く波打つ血潮と激しく鼓動する心臓、それ以上に炎上する心が見て取れるのだから。そんな加藤の左フックを側頭部にもらう度、壱はヒザを落とす。が、そこから戻り伸び上がる時に右ヒジの短刀で斬りつけることは忘れない。逆転の爆弾は目前にある。あれに突き刺されば……それは叶わぬまま終戦のゴングが鳴る。

 

危険な爆弾は無事だった。しかしそれは偶然ではなく、そこに致命の一撃をもらわぬように加藤が考え、動いたのだ。このキックボクシング史上に輝く岡山トーナメントの覇者を生み出したことで日本有数の“名伯楽”たる地位を手に入れた小野寺と石井ら目黒の一族たちが指導した通りに動いてみせて。

 

採点など聞く意味がない。5ポイント差が一人、6ポイント差が二人のユナニマス。完全無欠の優勝を遂げた加藤は、昨今にありがちにコーナーに駆け上がって大見得を切るでもなく、急にシャイボーイに戻って照れながら喜びを噛み締めているのか。いや、重責を果たした開放感にホッとしているのか俯いてモジモジしている。喜びに大笑いしているのは、RIKIXのチームメイトたちばかり。

 

翌早朝、倉敷駅前のホテル大浴場でひとり湯船に浸かりに来た真っ黒な左顔面を抱えた加藤は、たまたま入れ替わりのレポーターに今の気持ちを尋ねられて「一睡もできませんでした」とはにかんだ。なんと愉悦に満ちた不眠。億万の富を注いでも買うことのできないチャンピオンの特権快楽。

 

50年以上前に誕生したキックボクシング。その伝統ルール、ヒジ打ちあり、首相撲無制限。K-1やRISEが華やかに目立つ昨今、純然たる元祖の競技であまりに素晴らしい英雄が岡山で誕生した。那須川天心、志朗、鈴木真彦、江幡塁などこの数年間動きのないスーパートップ、しかも時勢によりオールドスクールに寄り付かなくなってしまったキックボクサーを超える可能位が高い加藤は、目黒の血統が生んだ救世主なのかもしれない。まだ無限に思える伸びしろが埋まる時、どれ程の感動をリングで見せてくれることか。まるで漫画『はじめの一歩』の主人公、幕ノ内一歩のような朴訥とした青年は、その拳で更なる肉体言語を朗々と謳い上げることだろう。

 

加藤のマイク:あ、え、あ、ありがとうございます。出ている選手が皆強くて、決勝戦だってなんとか、なんとかで。練習したことが上手く出たのと、なんとか気持ちを強く持って勝てました。えっと、RIKIXの加藤有吾です。これから“ヒジあり”キックボクシングをどんどん盛り上げて、そこで一番になるんで、名前を覚えて帰ってください——。


第9試合 有限会社トータルプランニングルミナス presents INNOVATIONバンタム級(53.52kg)王座決定戦 3分5回戦 (延長1R)

 

× 白幡 裕星(シラハタ・ユウセイ/橋本道場/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/INNOVATIONスーパーバンタム級4位、MuaythaiOpenスーパーフライ級王者/53.3kg)

○ 平松 侑(ヒラマツ・ユウ/岡山ジム/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/INNOVATIONフライ級8位/53.25kg)

判定1-2(48-49、49-48、47-48)
※平松をINNOVATIONバンタム級王者に認定

岡山ジムと橋本道場には、長年に渡り構築された信頼関係がある。岡山ジム主催興行シリーズに橋本道場所属選手が初参戦したのは、2015年の第2回、ムエタイ世界戦において強打で勇名を馳せるナーカー・ゲーオサムリットと“居合パンチャー”町田光が名勝負を織り成し、そこから毎年、宮本啓介、岩浪悠弥、安本晴翔といったエースたちが主要試合を激しくも華々しく闘い抜いてきた。しかし、それは朋友として肩を並べて共闘してきた間隔。それがここで真正面から対峙する。しかもINNOVATION王座を賭けて。

 

Open王者として赤コーナーで、橋本道場の最新鋭ともいえるホープ、白幡裕星が格上の貫禄を見せる。端正なマスク、豊かなキャラクター、何より突出した実力、堂々たるもの。

 

白面の美少年たるあどけなさが残る平松侑は、ホームリングで初タイトルマッチという誉れの中、それを楽しむような余裕は見えず、かといって意識過剰な緊張で浮足立った感じでもない。放たれるのは静かな殺気。リスペクトを殺傷本能に変換し、断固たる決意を募らせているかのよう。

 

両者は、一昨年(2019年3月31日)、新人対決ながらランキングのかかった試合で判定ドローとなっている。そこから共にどう成長し変化していることか?

 

両者は、奇しくも同時にロープ最上段に背中を預けて反らせるストレッチ。これは、橋本道場が輩出した王者の中でも突出したカリスマ性を持つ加藤竜二のルーティン。意識的か無意識か? セコンドは、赤コーナーに安本晴翔、青に馬木愛里。両ジムが誇る天才ファイターは親友でもあるらしい。

 

ゴング。まずは小麦色に焼けた白幡の軽快かつ高速ハイスペックな動きが目立つ。リズミカルでスタイリッシュ。対する平松は、細かく身体を揺らしながら瞬時に右に回り込む白幡の速度に動ずることなく不動の構えを左旋回させる。最新鋭の戦闘機と古式ゆかしい巡洋艦の戦闘といった対比が頭をよぎる。平松の左右アームガードは堅固に閉じられている。が、ここで白幡の高速ワンツーが叩き込まれ左拳が腕の盾を割ってヒットした。途端、白幡がマウスピースを覗かせて輝くような笑みを投げかけ、これに平松は首を傾けて「蚊に刺されたほどでもない」とのジャスチャー。そこから流れがテンポアップ。平松がトランクスの裾を捲り上げ即左ミドルキックを強振しヒット。これに左ミドルキックをリターンする白幡だが、それをキャッチしたまま左ストレートの大砲を撃ち込む平松。それを体でかわされるや右ヒジ打ち下ろしをフェイントに右の足払いを狙う平松を見透かした白幡は、これを外すと同時に腕を差し込み上体を浴びせかけ平松を宙に舞わせマットに叩きつける……と思われる攻防だが、これらの超速高度技術戦を正確にレポートできている自信もなければ、読んでいただいて理解される気もしない。そんなレベルの攻防が色を変えながらフルラウンド続くと、3分が1分にも感じない時間密度のマジックにかけられ、15分の激闘が体感3分程度に濃縮されてしまう。白幡の左ボディーストレートの直撃を両手広げて首を振り「効いていない」と会話する平松。18歳の両雄、リング上の精神年齢は壮年の面持ち。

 

2ラウンド、平松が前進速度を倍加させている。その変化にギアを合わせようとでもしたかの白幡に強引にしかける平松のワイルドな左ストレートと連続する左ヒジ打ち。そこで白幡は満面の笑み。白幡のパンチとキックは軽やかで矢継ぎ早。そのほとんどがヒットするが深く突き刺さる重みは感じられない。平松の左ミドルキックと左ストレート、左ヒジ打ちは、当たること稀だが、戦慄的な迫力がある。もちろん、白幡の攻撃が危険度で劣るわけではない。ジェダイの騎士が振るうライトセーバーと武士が命の日本刀とでも譬えられる。また、このラウンドから首相撲で二人が盛んに激しく投げ合う。それはどちらかに傾くでもなく互角に。特にまるでアマレスのベリートゥーベリー(フロントスープレックス)のようなそれは華麗で達人技のよう。しかもそれを双方がかけあうことができる技量の接近。そして、マットに身体が付く寸前、少しでも己が上になろうとする必死が分かりやすく鍔迫り合いを象徴する。

 

3ラウンド。白幡が平松の周辺を回遊するではなくサークリングしながらもグイと前進してコンビネーションブローを叩きつける。平松はこれに徹底したアームブロック、その後に左ストレートか左ヒジ打ちを強振する狙い。ともすれば腕の盾はただ上げているだけで変化に富むコンビネーションを拾いきれないこともあるが、平松はボディーブローをエルボーブロックするなど高い集中力で相手の動きを見て考えている。ラウンド終盤、豊富な白幡の手数が試合のペースを支配しつつあるかに見えたラスト30秒コールの後、突如として平松のノーモーション左ハイキックが直撃し白幡の首が折れる。いや、痛打されたのではなく、白幡はスリッピングアウェーの要領で寸前に動きを合わせてダメージを軽減していたかもしれない。それにしてもこの左ハイキックを“突如”と表現したが、それは客観目線でのことであって、実際は狙いすませた確信の一撃だったことだろう。それは、4ラウンドにこの一発ほどでなくても同じタイミングで左ハイキックをヒットさせたことから顕著だ。CC8A3764まさにこの一戦の為に磨き抜いた秘密兵器だったのであろう蹴撃が成功すると、そこでコンマ数秒の自己満足に浸るのが凡庸な選手だが、平松はここで狂ったようにフルスロットルで連打に出た。これまで曲線移動を徹底していた白幡が直線で下がり、左ストレートの直撃に頭を飛ばし、身体ごと叩きつける左ヒジ打ちを腕で受けながらふっ飛ばされる。これまで単発の強打をリターンすることに腐心していたかのようでありながら、一転して狂乱の連打に切り替えられるあたり、そのチャンスが来ることを想定し狙っていたと思われる。場内割れんばかりの嬌声。新型コロナウィルス警戒を徹底していた当興行だが、マスク越しながら心に響く迫力。阿鼻叫喚の中で鳴るラウンド終了の鐘。白幡は身体を揺らしながらコーナーに近づくとセコンドが手を延ばす前にマウスピースを吐き出した。

 

4ラウンド。初回、笑みを投げかけていた余裕の白幡はもういない。ある種、プロとしてカッコ良さを演じていたベールは投げ捨てた。全集中で現地のヒーローを叩き潰すために。そこで光るのは、豊富な練習量が伺える衰えないスピードと手数。左ミドルキックは何度も直撃し、そこに右ミドルキックなども織り交ぜ、より深く踏み込んだワンツーパンチを送り込む。平松は、本来ならここでカウンターのリターンを強振するチャンス。だが、それを遂行しきるエンジンが前回末に総てを吐き出すかのように繰り出したラッシュの代償でオーバーヒートを起こしているかのようで動かない。それでも中盤、あの左ハイキックを後頭部に快打してみせたのは流石。対して白幡は、常時機敏なフットワークを可能とするアイドリングステップがテンポアップこそすれ衰えない見事な心臓。CC8A3614白幡のプレッシャーは強く、平松は後手に回らざるを得ない。白幡はバッチリと決まった髪型を崩すことなく涼し気に踊り動いた序盤よりもマットに頭をこすりつけ頭髪はまばらに散り、全身汗まみれで戦闘に集中するこの姿こそが魅力的だ。そんな虚飾を捨てた強者に平松は、委縮するのではなく、それでも力を溜めては致命傷となり得る威力がある左ヒジ打ちなどを狙い撃つ。こんな場面で足を止めてマットを踏み抜く勇気は、やはり豊富な練習量とデタミネーションあってのことなのだろう。明確に平松が獲った3ラウンドの勢いを殺し、白幡が盛り返した絵に描いたようなシーソーゲーム。

 

5ラウンド。通常は最終回だが、王座決定戦だけに判定ドローならマスト判定の延長ラウンドが1回ある状態。ゴングが鳴るなり申し合わせたように白幡が左ストレートをノーモーションで打ち込み、それを知っていたかのように平松が右ヒジをあわせ、白幡もこれを分かっていたかのようにミリのスウェーバックでかわす。CC8A3806すると平松は組み付いて体重を浴びせかけて倒す。次も組み付いてねじり倒しに行くが、そこは白幡が体を入れ替えて上になる。基本こういった攻防の繰り返しが続く。見事なまでの泥試合。だが、当人たちの必死にそれを笑う者などあろうはずがない。平松が浴びせ倒しで立ち上がった後、白幡は下から足を掬って敵を転倒させる。恐らくは無意識的、それでダメージが与えられるわけでもないが勝利への執念が小さな所作に見える、つまりは“泥死合い”。両者、いや彼らの頭部を庇いレフェリーまでもが共に幾度マットに這ったことだろう? まともに立っている時間の方が短い程のくんずほぐれつ。そして、最後のゴング。

 

判定を待つ両者に試合を終えた安堵感はない。延長戦を見越して息を整えている。判定、赤(白幡)、青(平松)、そして、リングアナウンサーが演出的に溜めて告げた結果は、青(平松)。途端、泣き崩れる平松。憮然とする白幡。歓喜の青コーナーは、祭り騒ぎ。そこに白幡は歩み寄り挨拶を忘れない。平松も赤コーナーマット下に額を付けて敬意を表す。場内は、高レベルの激闘が死闘となり、泥にまみれてギリギリの勝利を得た地元の英雄を讃える熱で満たされている。冷ややかなるは、東京からの遠征組。この差を産んだミクロンの違いは、場所を変えれば容易に入れ替わるほどの微妙を孕んでいる。平松侑と白幡裕星、3試合目のゴングを叩く木槌は、すでに振り上げられているように思えてならない。

 

平松侑のマイク:白幡選手は、2年前よりも強かったです。途中で「勝てるだろうか?」と不安にもなりましたけれどベルトが獲れて良かったです。試合中でも応援が伝わりました。力になりました。こうしてチャンピオンに成れたのは、スポンサーさん、お父さん、お母さん、皆の力があってこそ、感謝です。ありがとうございます! もっと色んなデカい試合に出て、大きなタイトルを獲れるよう、もっと強くなろうと思います!


第8試合 幸輝興業株式会社 presents INNOVATIONスーパーウェルター級(69.85kg)王座認定試合 3分5回戦(延長1R) 

 

◎ 吉田 英司(ヨシダ・エイジ/クロスポイント吉祥寺/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/INNOVATIONスーパーウェルター級2位、REBELS-REDスーパーウェルター級王者/69.65kg)


× 喜多村 誠(キタムラ・マコト/ホライズン・キックボクシングジム/元日本ミドル級王者69.4kg)

 

TKO 5ラウンド 2分22秒 ※スリーノックダウン
※吉田をINNOVATIONスーパーウェルター級王者に認定

元来、地元・岡山ジムの俊英、高木覚清が吉田英司と当王座決定戦を争う予定で、そのカードこそが最初に発表されたメインイベントのタイトルマッチだったわけだが、高木が無念の負傷により欠場となり試合消滅危機だったところ、歴戦の勇士、喜多村誠が試合まで約2週間前という直前オファーを元旦に了承して認定試合(吉田勝利の場合のみ王座認定)としてリセットされたこの一戦は、そんな喜多村の奮闘により熱い内容となった。

 

身長188cmの吉田は、スーパーウェルター級(69.85kg)において破格の高身長。元ミドル級(72.57kg)、176cmの喜多村の肉体は、直前オファーを感じさせない見事な仕上がりで階級的にも平均的なリーチだが、並び立つとあまりの差、呆気にとられる。

 

1ラウンド、吉田はロングリーチに遠心力を乗せたフックやアッパーを左右連打で振り回す。あさま山荘事件に登場した鉄球をぶつけるクレーンのようなそれは、破壊力抜群でガード越しに喰らっても体幹がずれるほど。吉田は、これに右ローキックなどで脚も振り子に加えてくるだけに怪物的な強さを発揮している印象。その圧により手数は少ないものの、サークリングを駆使し内股へのローキック(インロー)を返す喜多村が早々のKOを回避できたことに対し逆に技術力を感じるほど。

 

2ラウンド、このままでは劣勢でしかない喜多村は、ここでギアを上げてきた。ブレなく高速で放たれる左右のローキックは、バリエーション豊かで、吉田の前進を妨げ、手数も格段に増加している。しかし、距離が開き吉田のワンツー、右ストレートの大砲がガード越しとて炸裂すると喜多村は数メートルも吹っ飛ばされる印象。それにしても喜多村は粘り強く前進と下段蹴りを欠かさない。

 

3ラウンド、喜多村はあらゆるローキックの中に流行りのカーフキックも織り交ぜている模様。吉田の一発も右アッパーや左右ボディーフックなど必倒の威力があるが、そのすべてに喜多村はローキックを合わせにいっているかのような勇気ある戦術を選択し続ける。このラウンド終了時に発表された採点中間発表では、29-29が2名、30-29で吉田の1-0でほぼ互角。

 

4ラウンド、ここで吉田が明確なポイントを獲りにか、手数を増して左ヒザのテンカオや大きな弧を描く右ヒジ打ちなど持てる力を全開に開放していくかのよう。だが、それは“打たれる”リスクも増すわけで、そこに喜多村のローキックが入れ食いとなる。これまでも表に見えない程度は効いていたのかもしれないが、吉田が大きくステップアップする時に上半身と下半身の噛み合わせ悪い様子が露骨になり、コツコツ打ち込んだダメージがかなりものであることが顕在化する。更には、首相撲に技量差を見せつけ、喜多村が巨大なる吉田を投げ飛ばし、体制を崩したところに飛び上がり振り下ろし右ヒジ打ちまで披露した。吉田の一撃の恐さは在り続けながら喜多村ペース。

 

最終回、5ラウンド、吉田はブンブン丸と化して全力で倒しに行く。フックとアッパーの軌道は回転ノコギリの様で恐怖。それを頬に掠らせながら勇敢にローキックを叩き込む喜多村の勇猛には感心するほかない。しかし、勝負は残酷にドラマティックに衝撃的にいきなり終焉する。吉田の渾身の左フックが喜多村の側頭部を直撃すると、ハンマーを水平に振り切ってマネキンを破壊したかのように脆く身体ごとぶっ飛んだ。どう見てもそこで試合終了の衝撃だったが、驚くべきことに瞬時に意識を失っていたであろう喜多村は、身体を震わせてフラつきながら立ち上がる。あまりに危険な状態でレフェリーは試合を続行し、そのまま突き飛ばされてもダウンする状況で立て続けにスリーノックダウンのKO敗。吉田の決定打は衝撃的だったが、それ以上に喜多村のド根性に多くの拍手が送られた構図となった。この勝利により、吉田は、同ジムの先輩、T-98(タクヤ)が返上したINNOVATIONスーパーウェルター級王者のベルトを引き継いだ。

 

吉田英司のマイク:試合がなくなりそうだった直前に喜多村選手がオファーを受けていただけたのでチャンピオンになることができました。ありがとうごいざいます! 喜多村さん、挨拶させていただいたらメチャクチャ良い人で、またやりたくはないですけど、とにかく感謝です! 多くの人に動いていただいてこうやってベルトが巻けました! 初めての岡山ですが、東京のREBELSで試合をしています。70kgでこれから暴れますので、よろしくお願いいたします!


第7試合 株式会社ミズケイ presents 54kg契約 3分3回戦

◎ HIROYUKI(ヒロユキ/RIKIX/元日本バンタム級王者/53.85kg)

× MASAKING(マサキング/岡山ジム/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/INNOVATIONスーパーバンタム級8位/53.8kg)

TKO 2ラウンド 1分1秒
※3R、MASAKINGダウン後、タオル投入あり ※1R、MASAKINGダウン×1

 

第6試合 株式会社ミズケイ presents ライト級(61.23kg) 3分3回戦

○ 紀州のマルちゃん(キシュウノマルチャン/武勇会/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/INNOVATIONライト級5位/61.0kg)

× 翔貴(ショウキ/岡山ジム/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/INNOVATIONライト級8位/61.15kg)

判定3-0(30-29、30-29、29-28)

 

第5試合 75kg契約 3分3回戦 肘打ちなし

× RYOTA(リョウタ/一神會館/74.9kg)

◎ 馬木 樹里(ウマキ・ジュリ/岡山ジム/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/74.6kg)

KO 2ラウンド 1分59秒


第4試合 セントラルグループ presents 岡山ZAIMAX MUAYTHAI 55kg賞金トーナメント 準決勝戦(Bブロック) 3分3回戦(延長1ラウンド)

トーナメントBブロック

 

○ 壱・センチャイジム(イッセイ・センチャイジム/センチャイムエタイジム/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/元ルンピニースタジアムジャパン認定バンタム級王者/54.85kg)

× 岩浪 悠弥(イワナミ・ユウヤ/橋本道場/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/INNOVATIONスーパーバンタム級王者、元INNOVATIONフライ級及びバンタム級王者、元WBCムエタイ日本フライ級王者、ルンピニースタジアムジャパン認定バンタム級王者、MuayThaiOpenバンタム級王者/54.8kg)

判定3-0(30-28、30-28、30-28) ※2R、岩浪ダウン×1 ※壱が決勝戦進出

純白のガウンを纏い軽くダンスステップを踏みながら華麗な入場の岩浪悠弥は、流石、ダントツの優勝候補、それだけの実績を感じさせるオーラがある。沖縄で空手とボクシングの一流から上京してムエタイに染まった壱(イッセイ)・センチャイジムは、華やかなスタームードを漂わせながら明るくタイ式を貫く。

 

 

1ラウンド、オーソドックス(右構え)の岩浪が右回り、サウスポー(左構え)の壱が左回りに動く定石とは逆の運動に両者の尋常ならぬ技術的なせめぎあいが見え隠れする。長距離砲の壱の左ストレートが強く、体幹の定まった岩浪の多彩な攻撃にブレはなく、1年前の前回(2019年12月1日)は岩浪1RKO勝利で終わったリマッチとして両者に差は感じられない高度な試合運び。

 

 

2ラウンド、よりパワフルに積極的前進の壱は、左ミドルキックや左ハイキックを強振。直撃はしなくとも野性的な攻勢はなかなかのもの。それを左フックなどでボディーコントロールする岩浪のテクニックも流石だが、壱の強い気魄が印象的。そんな攻防の中、ラスト10秒ほどで壱の高速ワンツー、左ストレートが顎を捉え岩浪ダウン。深刻なダメージは見られず岩浪に狼狽はないが、ワンデイトーナメントだけに5回戦ではなく3回戦であるこの試合で2ポイントロストは痛恨。会心のダウンを奪取しながらも壱は冷静に舌なめずりでゴング。

 

 

3ラウンド、倒さなくてはならない岩浪は手数を倍増。そんな焦りをついてまたも壱のワンツーが直撃し岩浪の顎が跳ね上がる。それほど首相撲に固執しない両者だが、体格差で有利に運ぶのは壱。そんな壱は、ここで初めて右回りしだし、これはポイントアウト狙いでもあったか。自然と攻める岩浪、いなす壱の構図となる。そんな中で光るのは、壱が前進を止めず気魄で岩浪を呑みにかかっているところ。互角の攻防のうちにゴング。

 

 

判定は明白でジャッジ三者とも30-28。これが5回戦であれば勝負はここからとも思えるが、それは事前に決まって了承していたこと。相当の悔恨や忸怩たる想いはあろうが、岩浪はマナー良くサラリと挨拶をかわしてリングを去った。

 

 

壱のテクニック、パワー、勢いは相当のもので気力も充実。何より圧倒的なスターの素養がキラキラと輝いており、強敵とフルラウンド闘いそれなりのダメージも疲労もあろうが、初戦を秒殺KOで圧倒した加藤有吾との決勝戦にハンディを残した気もしない見事な勝利だった。


第3試合 セントラルグループ presents 岡山ZAIMAX MUAYTHAI 55kg賞金トーナメント

準決勝戦(Aブロック) 3分3回戦(延長1ラウンド)

 

◎ 加藤 有吾(カトウ・ユウゴ/RIKIX/WMC日本スーパーバンタム級王者/54.6kg)

× 元山 祐希(モトヤマ・ユウキ/武勇会/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/ICO認定インターコンチネンタルフェザー級王者、INNOVATIONスーパーバンタム級3位/54.95kg)

 

TKO 1ラウンド 2分11秒 ※スリーノックダウン

※加藤が決勝戦進出

このトーナメント参加者の中では、実績で他の3名に劣る元山祐希だが、2階級も上のスーパーフェザー級でタイトルマッチ経験があるなど体格の優位があり、今回初となる55kg契約でのコンディショニング次第では、圧倒的なタフネスとパワーが発揮されるのではと警戒されもしている。計量時の肌艶も良く、落ち着いた面持ちで入場してくる様子に静かな闘志も秘めている雰囲気があり、心身の充実を感じさせた。

 

 

加藤は、この数戦で戦慄的な一発強打を披露して連勝中の21歳。伝説のラジャダムナン王者、石井宏樹の愛弟子で、キックボクシング界のキーマンでもある史上最高レベルの名王者、小野寺力の秘蔵っ子。彼らが生まれ育った目黒ジムは、キック創世の地。ボクシングの名門、野口ジムから派生しただけに流麗なボクシングと“キックの鬼”沢村忠の美しい軌道を描く蹴りの絶妙なバランスで成り立つ“目黒スタイル”を小野寺らが受け継ぎ、言わば三代目として継承しているのが加藤となる。入場は、派手な演出に脇目も振らず試合のみに極端に集中する職人スタイル。

 

 

ゴング。コーナーを叩いて飛び出す元山。冷酷なマシーンのようにステップを刻み前に出る加藤。ファーストコンタクトで激しく打ち合い、元山がサークリングでこれをいなすかのように思われた刹那、左フックがテンプルにクリーンヒット。破壊的な一撃といったインパクトもなく実に自然に繰り出されたパンチで呆気なく倒れた元山本人が一番信じられないといった驚きを見開いた眼で表している。この鉄球が掠ったような一発で事実上試合終了ほどのダメージを負った元山は、ダメージ回復を狙う為の逃げ脚が死んでいると見るや逆転に賭けて打ち合いに出るが瞬く間に左右の連打で腰砕けになりダウン。続いて即座にワンツーの右ストレートでスリーノックダウンのTKO。

 

ワンデイトーナメントにおいてこれ以上ない完璧な勝利を収めて決勝戦進出を決めた加藤に笑顔はなく、次の試合に早くも備えている印象。結果的に何もできなかった元山の無念さの方が色濃く残る131秒だった。


第2試合 53kg契約 2分3回戦 肘打ちなし

△ 黒田 直也(クロダ・ナオヤ/ハーデスワークアウトジム/52.95kg)

△ 平松 弥(ヒラマツ・ワタル/岡山ジム/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/52.55kg)

判定0-1(28-28、27-28、28-28) ※1R、平松ダウン×1

 

第1試合 INNOVATIONフライ級(50.8kg)新人王トーナメント1回戦 2分3回戦(延長1R) 肘打ちなし

× 琉聖(リュウセイ/井上道場/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/50.1kg)

○ 風太(フウタ/岡山ジム/JAPAN KICKBOXING INNOVATION/50.15kg)

判定1-1(30-29、28-29、29-29)→延長マスト判定1-2(10-9、9-10、9-10)

※風太が新人王トーナメント2回戦進出